香港随一の観光名所というだけあって、夜のビクトリアピークは混んでいた。
混むと予想して夕方の早い時間にトラムに乗ったのだが、すでにその時から乗り場には行列ができており、乗車するまで思った以上に時間がかかった。
おかげで、目的地に着いたときには既にとっぷりと日が暮れており、夜景を見られる展望台は既に人で溢れていた。
それでも、人をかき分け前に進み、何とか場所を確保して夜景にありつくことができた。
少し曇っていたが、さすが観光名所、いや、さすが香港、摩天楼が放つまばゆい光の数々は、まるで香港が持つエネルギーを具現化したようで、引き込まれるものがあった。
ビル群が音楽に合わせてライトアップされるショーイベントも楽しみ、高そうな土産物が並ぶ店を尻目に、三人は展望台をあとにした。
「どうする?」
トイレを済ませたところで、S君がやや名残惜しそうに尋ねた。
彼の言わんとすることは理解できた。
ここまで来るのに、トラムと展望台の料金を支払った。
それに、トラムに乗車するまでに随分と時間もかけた(一時間くらい待ったと記憶している。)。
しかし、夜景を楽しんだのはほんの30分程度である。
もっと展望台にいれば良いのだが、ずっと夜景を見るのもつまらないし、座って休む場所もない。
周りに店がいくつもあるが、特に目を引くものもなかった。
ビクトリアピークでの観光が、たった30分で終わろうとしているのである。
S君は展望台から続く道路を見上げた。
展望台は、ビクトリアピークの中腹にあった。
頂上にあるわけではないのだ。
「あそこに展望って書いてる看板があるな」
S君の指す方を見ると、確かにそんな看板があった。
随分と古い看板だった。
「こんな中腹で見るより、もっと高いところで見た方が夜景も綺麗なんじゃない?」
S君の言うことも一理ある気がした。
確かに、展望台からだと、香港の全体像が分かりづらかった。
高い場所からだと、もっとはっきり見れるのかもしれない。
筆者も賛同した結果、より夜景を綺麗に見られる場所に行ってみることにした。
「でもここより高い場所に、展望台があるなんて書いてないな」
ガイドブックを見ていたN君がポツリと呟いたが、S君の耳には入らなかったようだ。
そのままズンズンと歩いていくS君のあとを、筆者とN君も追って歩き始めた。
(続く)