15分ほど歩いてみたが、登れど登れど一向に展望台は見つからなかった。
最初は広かった道路も、歩を進めるにしたがって細くなっていった。
道路はアスファルトだが、すぐ脇は山肌が見えていて、まるで登山をしているようだった。
おまけに、途中からは街灯もなくなり、辺りが真っ暗になる始末である。
ふと周りを見渡せば、筆者たち以外の人影はなくなっていた。
車が一台通れるくらいの真っ暗な夜道を三人がとぼとぼと歩いていく。
見知らぬ海外の土地で、である。
もし今、香港マフィアが現れたら。
言い知れぬ不安が徐々に募っていった。
言いだしっぺのS君も、さすがにこれ以上は危険と思ったのか、とうとう「帰ろうか」と元気なく呟いた。
結局、何も収穫がないまま三人は元来た道を引き返すことにした。
時計を見ると、もう21時近くだった。
まだ夕飯を食べていない。
三人ともお腹がペコペコだった。
急いで引き返して、早く目当てのレストランで本場の中華を食べたい。
「やっぱり、ガイドブックに書いてない場所にはいかない方がいいね」
そんなことを言ってS君を慰めつつ、三人は山道を下った。
小籠包が食べたい。麻婆豆腐が食べたいなどと、努めて明るく話しながら夜道を下っていくと、前から一台の煌々とライトを照らした車がやってきた。
「車来たよー」
一番後ろを歩いていたN君が注意を促す。
車は、結構なスピードを出していた。
まさか向こうも、暗い山道を人が歩いているなんて思うまい。
「気をつけよう」
車が通りがかるタイミングで、三人は道の脇に逸れた。
その瞬間だった。
ドスッ。
鈍い音が下の方からした。
何かが落ちる音だった。
そして、低いうめき声が続いた。
車のライトが通り過ぎたあと、筆者は違和感を覚えた。
一番前を歩いていたS君の姿がないのだ。
「あれ」
そう言ったきり、言葉が続かなかった。
S君が消えた。
いやしかし、そんな不思議なことがあるはずがない。
再び下の方から音がした。
今度は土が擦れる音だった。
目を凝らして見ると、そこには大きな穴が空いていた。
しかも深い。
1メートルくらいの深さがあった。
そこに足を広げて座り込んでいるS君の姿があった。
なんと、S君は深い穴の中に落ちていたのだ。