夜のコンビニに海苔とマヨネーズ

寒さが深まってきている。
風の強い夜は特に寒い。

妻は寒さが大の苦手である。

女性は寒さに弱い人が多いが、それは筋肉量が少ないからだそうだ。

特に妻は普段から車での移動が多く、歩く機会も少ないから、筋肉量が極端に少ないのだろう。
筆者にとってはこの程度寒いうちに入らない、という気温でも寒い寒いと言ってストーブを点ける。

そんなことだから、最近は外に用事ができたときは、筆者が駆り出されることが多い。

この間海苔を切らしたときもそうだった。

妻は毎朝海苔を食べている。
便秘に効くのだそうだ。

以前ひどい便秘に悩んでいた頃、テレビか雑誌で見たその情報を信じて、毎朝海苔二枚を食べることにしたところ、便秘が解消したらしい。

海苔二枚といっても手巻き寿司用である。
25センチ四方くらいある。
結構な大きさだし、毎朝食べるとなるとすぐなくなってしまう。

その海苔が、夕食後切れていることがわかった。
翌日朝に食べる海苔がない。

妻はそういった自分の習慣を乱されるのが嫌らしく、そわそわしながら「買いに行かなきゃ」と言い始めた。
夜の9時過ぎである。

外は寒く、コンビニまでは少し歩く。
そんな中わざわざ買いに行くほどのものか。

リビングで本を読んでいた筆者は思わず

「一回くらい抜いても良いんじゃない?」

と言った。

すると、途端にイラ立ち始める妻。

昔なった便秘が辛く、もう二度と同じ思いをしたくないらしい。
どうしても海苔が必要と言う。
さしずめこれはもう、便秘恐怖症である。

便秘に怯える子猫ちゃんである。

妻がこのモードに入ったらどうしようもない。
テコでも動かない。
何日目の便秘だというくらいの硬さ。

愛妻家を自負している筆者。
こんな寒い中、それも真っ暗な夜道を妻に一人買いに行かせるわけにはいかない。
そんな男に愛妻家は務まらない。

「じゃあ買いに行ってくるよ」

迷わずこう言ったつもりなのだが、言葉に筆者の本心が滲んでいたのかもしれない。
女性は敏感である。
一気に妻の顔が曇った。

「嫌なら行かなくていいよ」

妻の言葉が、筆者の喉元に突きつけられた。
筆者の呼吸が浅くなる。
対応を間違うと大変なことになる。

「嫌とかそういうのじゃないよ」

努めて冷静に言う。

「今、嫌そうに言った」

「言ってないよ」

「言ったよ。私だってわざわざ行かせるの嫌なんだからね。言うんだったら、もっと嬉しそうに言ってよ」

「こんな時間に買いに行くのに、嬉しそうになんて言えるわけないだろ」

「嫌そうに言われると、こっちだって嫌な気分になるんだよ」

「だから、嫌そうになんて言ってないって」

「言ったよ」

活字にすると味気ないが、後半は妻も筆者もかなりヒートアップしている。
ここまでくると、二人とも引かない。
筆者も愛妻家返上で応じることになる。

結局この日はしこたま喧嘩し、いくつかの家財道具が傷ついた挙句、怒り心頭でコンビニまで海苔を買いに行った。

寒空の下振り返ってみると、今回の喧嘩は筆者が最初に「一回くらい抜いても良いんじゃない?」と言った時点で、勃発は必至だったのかもしれない。

まったく、地雷がどこに埋まっているのかわかったもんじゃない。

夜の喧嘩は疲れる。
寝つきが悪くなるし、怒りを冷ますのにも苦労する。
寒空の下、頭を冷やすとなぜこんなくだらないことで喧嘩をしたんだと馬鹿馬鹿しく思えてくる。

大概の喧嘩は、くだらないことが原因なのだろう。

喧嘩を避けるには、結局お互いの我慢が必要なのである。
いや、我慢という考え方はよくない。
お互いへの思いやりが必要である。

さて、学習能力に定評のある筆者。

数日後、夜にマヨネーズを切らしたときは、嬉しそうに返事をして買いに行った。

しかしこれは、翌日の筆者の弁当にサンドイッチを作りたいというのだから、また状況は違うのかもしれないが。

 

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