整体に行ったら

筆者の仕事はデスクワークがメインである。

一日中座っている仕事で、基本的に会議もない。

そのため、何か自分できっかけを作らない限り立つ機会がない。

そんな職業柄のせいであろう。
職場には腰痛持ちが多い。
腰痛を緩和させるために、椅子にクッションを置いている人も多数。

痔持ちも多いと聞いたことがある。
しかし実際に面と向かって「俺、痔なんだよね」などと言われたことがないので、真偽は定かではない。

 

さて、筆者も腰痛や肩凝りに悩まされてきた。

特に仕事が忙しく、夜遅くまで座っている日が続くと、体が悲鳴を上げ始める。

今でこそ、毎日寝る前にストレッチをしているので気にならないが、昔は腰痛と肩凝りがひどかった。

もう何年も昔、腰痛のせいで手足が痺れることがあった。

焦って整形外科に行くと、ヘルニアだという。

治らない病気と聞いたことがあったので、かなり落ち込んだ。

しかし、よくよくネットで調べてみると、整体に行けば直してくれるかもしれないというではないか。

整体になど行ったことがなく、また東洋医学を若干疑いの目で見ていた筆者だったが、藁にもすがる思いで、比較的ネットて評価の高い整体に行くことにした。

一回60分で五千円。まだ若かった筆者からすれば痛い出費であるが、背に腹は変えられぬ。
予約を取り施術をしてもらうことにした。

当日行ってみると、そこは施術者一人のこぢんまりとした店だった。

自宅を改装した感じの施術所で、建物の玄関には整体師としての認定書が飾られている。

初老の施術者と筆者一人。
少し緊張するが、施術者は感じのいい男性だったし、室内はなんだかいい匂いもする。

こういう気遣いも大事んだなぁと、妙に感心してしまった。

ラフな服装に着替えて、まずは台に座って身体の歪みや凝りのひどさを診てもらう。

「かなり凝ってますね。まずは身体全体をほぐしていきます。」

やはり凝ってたか、と思い施術者に身を任せたる。

まずは太ももから。
うつ伏せになった筆者の太ももに施術者の膝が食い込む。

だおおおおおお!(※心の声)

激痛。
経験したことのない激痛である。

あまりの痛さに目から火が出そうな筆者。
無意識に手がタオルを掴む。

足の筋を固い骨でモロにグリグリとしてくるのである。

ただ押さえるのではない。
グリグリである。

筋をやられている感覚をモロに感じるのである。

お前本気か!?

心の中でそう叫ぶが、表には出さない。

「痛くないですか?」

施術者が聞いてくる。

(冷静を装って)「結構痛いものなんですね」

なぜやせ我慢したかと言われると、それは自尊心がそうさせたとしか答えようがない。

負けたくない。
その一心である。

全く無駄な自尊心である。

施術は腿だけでなく、お尻、腰、首、肩と全身に続く。

その全てがいちいち痛いのである。

痛いということは、効いているのということだ。

しかしあまりに痛くて、途中から悪意を感じてしまう。

バライエティ番組の罰ゲームで、芸能人の足を楽しそうにグリグリする光景が思い浮かぶ。

このオッサン内心楽しくてやってるんじゃないか。
感じのいい風を装って、とんだジジイだ。
絶対痛いなんていうものか。

そんな悪態を心の中で反芻し、耐えること60分。

ようやく終了である。
何度悲鳴を上げようとしたことか。

施術者は、施術前と変わらぬ様子。

性格が悪いというのは、筆者の思い違いだったのかもしれない。

夜は風呂に入らないでくださいと言われ、支払いを済ませて店を後にした。

帰り道、心なしか体が軽くなったと思いながら、気分が良くなったのだが、整体には「もみ返し」なるものがあることを筆者は知らなかった。

 

翌日から二日間、38度の高熱にうなされたのである。

あおまけに、体内に溜まっていた老廃物が一気に流れたせいで結膜炎になり、背中に粉瘤ができてしまって手術で一週間入院することになった。

普通なら、もう整体は嫌だとなるだろうが、これが筆者の真骨頂。

ヘルニアが治ったということもあり、その後も同じ店に通い続けるのであった。

 

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