テレビで宮崎駿監督の『風立ちぬ』が放送されていた。
もう何年も前、映画館に一人で観に行ったのを覚えている。
その時思ったのは、なんだかフワフワとした映画で、何を言いたいのか良く分からないな、という感想だった。
消化不良だった。
というのも、作品中、しばしばストーリーが主人公の二郎の夢の中の物語に移り、その夢の中で、現実での出来事がファンタジーのように緩く描かれるからだ。
緊張感がないとでもいうのか。
そして、大切なラストシーンも夢の中の話で終わる。
戦争の終結も最愛の人の死も夢の中で語られるのだ。
戦争映画だが、子供たちにも受け入れてもらうために、そのような構成にしたのかもしれない。
当時はそんな感想を持った。
そして月日が流れること数年。
久しぶりに観た『風立ちぬ』は味のある作品に変わっていた。
人の死など、生々しい描写はないし、戦争について多くは語られない。
二郎が持つ夢と、菜穂子との愛に焦点が当てられていた。
戦争という時代に、夢を追い続け、懸命に命を燃やした二人。
だがその結果、たくさんの命が失われ、また菜穂子も病で命を落とすことになる。
やはり宮崎駿監督は、戦争の虚しさを描きたかったのだろう。
最初は不自然に感じられた庵野秀明氏の声も、途中から違和感がなく、むしろ朴訥とした二郎にフィットしていた。
宮崎監督の中でも異色と言われる本作だが、筆者は、他の作品よりも緊張感と現実味があって好きだ。
また何年か経って観てみたら新たな発見があるのかもしれない。