名刺は個人情報

この間の週末、とある駅ビルを一人で歩いていたときのこと。

人ごみの中、周りをキョロキョロ見渡している黒スーツ姿の若い女性がいた。

たまたまその女性の近くを通りかかることになったのだが、その女性は、筆者と目があうや否や声をかけてきた。

「あの、すいません。今、会社の新人研修で100人の人と名刺を交換しないといけないんですよ」

キラキラとした瞳で、困ったように眉毛をハの字にしながら言う女性。

 

紳士を自負する筆者は思った。

 

そりゃ大変だ。なんて研修なんだ。きっとこの女性は苦労しているに違いない。

 

しかし、その日はオフ。名刺など持ち合わせていない。

協力してあげたいのは山々だが、名刺を持っていない旨伝えて、泣く泣くその場を立ち去った。

 

歩きながら考える。

 

いろんな研修があるんだなぁ。100枚ってすごい数だ。でも確かにこれをやることで度胸がつきそうだぞ。

しかしスーツ姿でもない自分に声をかけるなんて、余程切羽詰まっているんだなぁ。

そもそも週末にそんな研修やっても、名刺持ってる人少ないだろうなぁ。かわいそうに。

ていうか、エッセイのネタ集めに、立ち止まって話を聞いたほうが良かったかもな。ちょっと可愛かったし。

 

そんなことを考えながら、スマホを取り出し、何の気なしに「名刺」「新人研修」で検索してみた。

 

すると、衝撃の事実が。

なんと、この手の「研修」で集められた名刺は、それを元に名簿が作成され、その名簿が色々な会社に売りさばかれているようなのだ。

実際に名刺を渡したらしき人の情報によると、後日会社に勧誘の電話が何度もかかってきたらしい。

 

恐ろしい世の中である。

言われてみれば、名刺は個人情報の塊である。

取り扱いに気をつけなければならないものだったのだ。

 

名刺はある程度信頼できる人にしか渡してはいけない。

それに加え、他人からもらった名刺は管理に気をつけないといけない。

 

例えば、ちょっと良い会社に勤めているからといって、自慢げに飲み屋のオネーチャンにほいほいと渡すようなものではないのだ。

※あくまでも、ずさんな管理をしている人のイメージ

 

それにしても、この名刺集めの手法、親切な人泣かせでタチが悪い。

新人の苦労を慮って、手を差し伸べた結果、迷惑を被るのである。

恩を仇で返すというか、正直者がバカを見るというか。

 

ちなみにこのことを妻に言ったら、

 

「若い女に鼻の下を伸ばす男にはバチが当たるのよ」

 

と一蹴されてしまった。

 

確かにネットを見ると、新人役は若い女性、被害者は男の記事ばかり。

 

つくづく、あの時、

名刺を持っていなくて良かった

と思った筆者であった。

 

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