なかなかうまく噛み合わない夫婦であるが、少ないながらも、好みが似ている部分もある。
味覚である。
二人とも薄味が好きなのである。
自分で薄味好きだと自覚していた筆者だが、妻は輪をかけて薄味好きである。
筆者が美味しいと思えるギリギリのラインが、彼女のど真ん中の好みなのである。
そして筆者に輪をかけて、自然本来の味が好きである。
スーパーで売っている惣菜や、パウチされて売っている、一品ものの素などは、彼女は決して買おうとしない。
美味しく感じないらしいのである。
食事をしていて、筆者が美味しいと感じるものは、大方妻も美味しいと感じるようである。
似た感覚があって、本当に良かったと思うのである。
しかし、似た感覚の中にも差異があるのは当然である。
筆者は肉が好きである。肉汁のしたたる焼肉やステーキなど最高である。
しかし妻は好まない。脂が多いと、気持ち悪くなるようである。
味覚というより体質なのかもしれない。
筆者は酒が好きであるが、妻は弱いので飲まない。
これも体質であろう。
僅かであるが、差異があるから、それが確執の元となる。
妻は、筆者が酒を飲むのを快く思っていないようである。
彼女からそれを直接言われたことはない。
楽しみを奪うことを悪く思っているからか、妻も飲むなとは言わないのである。
言わない代わりに、それとなく、酒を飲むなとプレッシャーをかけてくるのである。
こんなことがあった。
まだ妻の酒嫌いを知らなかった頃、親戚からもらったビール一缶を、夜に飲もうと冷蔵庫に入れたことがあった。
新潟の地ビールで、近くのスーパーでは売っていない。
どんな味か楽しみだったわけである。
そして夕食時になり、キンキンに冷えたのを飲もうと冷蔵庫を覗くと、ないのである。
おかしいな、確かに入れたのになと思い戸棚を開けると、ビールが元の位置に戻されている。
妻を見ると、彼女は何食わぬ顔をしているのである。
飲むなと決して直接は言わない。
しかし、それがまた恐ろしいのである。
結局、喧嘩になるのが嫌だったので、その日のビールは諦めたわけである。
彼女には、酒は身体に悪いもの、という固定観念があるようである。
酒は百薬の長という言葉をまるで信用していないのである。
それだけ筆者の身体を心配してくれているとも言えるが、一方で、酒を飲んでも全く性格が変わらないことが面白くないようである。
親からの遺伝であるが、どれだけ飲んでも顔色が全く変わらない。
そして、お酒が進むほど無口になるのである。
妻は、酒で筆者が陽気になることを期待していたらしい。
しかし、ますます暗くなるし、健康にも悪いし、いいことがないというわけである。
そんなわけで、妻が出かけるのを見計らって、こっそりと酒を飲んでいるわけである。
読者にもお教えしたいが、こっそり飲むビールも開放感があってこれまた美味い。
オススメである。