抽選の時間まで、担当者と雑談をして過ごした。
心境のせいか、会場がピリピリとした雰囲気に包まれているような気がした。
嫌が応にも緊張する。
記念受験のつもりできた抽選なのに、合格の可能性が俄然高まったのだから当然だ。
千載一遇のチャンス。
逃したくないという思いはもちろんある。
だが家選びは縁だともいう。
ダメだったら、縁がなかったと諦めるしかない。
抽選の時間になり、個室に通された。
小さなスペースに机を挟んで椅子が置かれている。
促され、そこに座った。
2、3分してから、もう一人の男性が入ってきた。
どうも、と爽やかに挨拶をし、彼も同様に着席した。
マスクをしているのでよくわからないが、同じくらいの年齢に見える。
なかなかオーラがあった。
「いやぁ、緊張しますね。」
と、世間話を繰り出す様にも余裕がある。
最初から気圧されてしまっている。
いかんいかん、と気合を入れ直す。
やがてダークスーツを着たスタッフが入室する。
手には二つの黒い封筒が。
中身を見せる。
それぞれ紙が入っていて、一つには、「おめでとうございます」との文章が。
もう一つには、「残念ですが・・・」との文章。
くじを引く順を決めるために、男性とじゃんけんをする。
結果は筆者の負け。
幸先が悪い。
その男性は、先に引く方を選択。
そして、彼の目の前にシャッフルされた二つの封筒が。
少し迷った後、彼は右を選んだ。
筆者もそっちかな、と思った。
まずい。
嫌な予感しかしない。
いや、ここで落ち込んでいても仕方ない。
残り物には福があるのだ、と言い聞かせる。
残った封筒を手渡され、同じタイミングで開ける。
緊張して、うまく封筒が開かない。
野球のドラフト会議もこんな心境なのだろうか。
どうでもいいことが思い浮かぶ。
まごつきながら開け、二つ折りの紙を開く。
そこには、
おめでとうございます。
の文字が。
と同時に、「あぁ・・・」という声が目の前の男性から漏れる。
当たった。
当たったのだ。
勝手に負け戦だと思っていたから、信じられなかった。
心臓が早鐘を打っている。
スタッフに促されて、出て行く男性。
「いい家、建ててください」
そう言い残して、彼は部屋を後にした。
なんとできた人か。
試合に勝って勝負に負けた感。
その後、正式に土地の申し込みをした筆者は、ギャンブル後に似た興奮と敗北感とを噛み締めながら、帰路に着いた。
(つづく)