家を買う③

抽選の時間まで、担当者と雑談をして過ごした。

心境のせいか、会場がピリピリとした雰囲気に包まれているような気がした。

 

嫌が応にも緊張する。

記念受験のつもりできた抽選なのに、合格の可能性が俄然高まったのだから当然だ。

 

千載一遇のチャンス。

逃したくないという思いはもちろんある。

だが家選びは縁だともいう。

ダメだったら、縁がなかったと諦めるしかない。

 

抽選の時間になり、個室に通された。

 

小さなスペースに机を挟んで椅子が置かれている。

促され、そこに座った。

 

2、3分してから、もう一人の男性が入ってきた。

どうも、と爽やかに挨拶をし、彼も同様に着席した。

マスクをしているのでよくわからないが、同じくらいの年齢に見える。

 

なかなかオーラがあった。

 

「いやぁ、緊張しますね。」

と、世間話を繰り出す様にも余裕がある。

 

最初から気圧されてしまっている。

いかんいかん、と気合を入れ直す。

 

やがてダークスーツを着たスタッフが入室する。

手には二つの黒い封筒が。

中身を見せる。

 

それぞれ紙が入っていて、一つには、「おめでとうございます」との文章が。

もう一つには、「残念ですが・・・」との文章。

 

くじを引く順を決めるために、男性とじゃんけんをする。

 

結果は筆者の負け。

 

幸先が悪い。

その男性は、先に引く方を選択。

 

そして、彼の目の前にシャッフルされた二つの封筒が。

少し迷った後、彼は右を選んだ。

 

筆者もそっちかな、と思った。

 

まずい。

嫌な予感しかしない。

 

いや、ここで落ち込んでいても仕方ない。

残り物には福があるのだ、と言い聞かせる。

 

残った封筒を手渡され、同じタイミングで開ける。

緊張して、うまく封筒が開かない。

 

野球のドラフト会議もこんな心境なのだろうか。

どうでもいいことが思い浮かぶ。

 

まごつきながら開け、二つ折りの紙を開く。

そこには、

 

おめでとうございます。

 

の文字が。

 

と同時に、「あぁ・・・」という声が目の前の男性から漏れる。

 

当たった。

当たったのだ。

 

勝手に負け戦だと思っていたから、信じられなかった。

 

心臓が早鐘を打っている。

 

スタッフに促されて、出て行く男性。

 

「いい家、建ててください」

 

そう言い残して、彼は部屋を後にした。

 

なんとできた人か。

 

試合に勝って勝負に負けた感。

 

その後、正式に土地の申し込みをした筆者は、ギャンブル後に似た興奮と敗北感とを噛み締めながら、帰路に着いた。

 

(つづく)

 

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