座席を譲ってあげることは、絶対的正義ではない

電車の中やバスの中で、自分が座っていたとする。

そこに体調の悪そうな人が乗ってきて、自分の目の前に立った。

あなたが善良な市民であれば、きっとその人のために席を譲ってあげるだろう。

おそらく、10人中10人が、その行為は素晴らしいと誉めたたえることだろう。

 

しかし、ここで筆者はあえて問いたい。

 

あなたが良かれと思ってやったその行為は、果たして100%良いことと言い切れるか?

 

例えば、あなたが席を譲ることで、逆に迷惑を被る人はいないだろうか?

 

座席を譲る行為により、嫌な思いをする人もいる。

今回はそんなお話である。

 

先日、仕事から帰宅中の電車の中でのことである。

筆者が使っている路線はいつも混んでいる。

乗っていたのは21時と少し遅めの時間帯だったが、やはりその日も混んでいた。

そんな中、途中の駅で目の前に座る人が降りたので、これ幸いと着席した。

 

ここであらかじめ断っておくが、筆者はあまり善良な市民ではない。

つまり、目の前にお年寄りが立ったとしても、席を譲るとは限らない。

よほど筆者の体調が良いか、そのお年寄りが弱々しそうだったら譲る。

立ったのが普通のお年寄りだったら、最近のジジババは元気だからな、とか適当な理屈をつけて寝てしまう。

実際、疲れているから、寝たふりとかではなく本当に寝てしまうのである。

 

さて、その時は座りながらスマホでポンドと円のチャートを眺めていた。

なかなか下がらないポンドにイライラしていたのである。

 

しばらくそうしていると、目の前に男性の老人が立った。

それを目の端で捉える筆者。

1メートル70センチくらいはあっただろうか。

随分と背の高い老人だなと思ったが、それ以外特に気にすることもなく、座り続ける。

座席を譲らなかった経験は何度もあるので、もはや罪悪感など微塵も感じない。

 

しかし少しして、目の前の老人に対して異変を感じた。

 

老人が大きく揺れているのである。

見上げると、つり革に捕まりながら、睡魔と戦っているかのように目を虚ろにしつつ揺れている。

 

体調が悪いのかもしれない。

一瞬そう思ったが、善良でない市民である筆者は、特に気にすることなく視線をスマホに戻そうとした。

 

しかし、その時。

 

筆者の目はとんでもないものを捉えたのである。

 

それは、老人のパンツだった。

真っ白なパンツだったのだが、そのパンツの股間から足に膝にかけて、濡れたような大きく長いシミができていたのである。

そう。まるでお漏らしをしたかのような。

びっくりした筆者は鼻に神経を集中してみた。

幸い、何も臭わない。

 

もしかしたら、尿ではないのかもしれない。

しかし、シミのできている場所から推察すると、どう考えても尿である。

老人は変わらず揺れている。

しかも縦揺れなのである。

つまり、一定の間隔でパンツのシミが筆者の目の前までやってくるのである。

これはたまったもんじゃない。

 

座席を立とう。

 

そう思ったが、はたと思いとどまった。

筆者が立てば、その老人が代わりに座ることになる。

当たり前である。

しかしそうすれば、筆者の両隣の人が嫌な思いをするだろう。何しろ、その老人がダイナミックに動くのだから。

さらに、おしっこをちびった人が隣に座っているという、えも言われぬ不快感を味わうことにもなる。

突然、そんな人が隣に座る不条理にあなたは耐えられるだろうか。

 

そして、座席。

その座席は老人の尿を吸うことになる。

臭いがついてしまうかもしれないし、きっと次の人も座りたくないだろう。

つまり、この老人を助けることで、別に被害を被る人が出てくるのである。

 

果たして、座席を譲ることは正義なのか。

 

結局、この葛藤を5分ほど続けた結果、筆者は座席を譲った。

 

老人の揺れが、時間の経過とともにダイナミックになり、パンツのシミが筆者の手につく寸前までいったためである。

他人に迷惑がかかるとかじゃなく、筆者自身がこのシビアな環境に耐えられなくなったのである。

 

座席に座った老人は、案の定隣の女性にもたれかかった。

そしてその女性はパンツのシミを見ながら、あからさまに嫌そうな顔をして、老人とは逆側に体を寄せていた。

 

彼女には本当に申し訳ないことをしたと思っている。

 

 

この経験から、筆者は善良な市民に問いたい。

 

あなたが席を譲ることで、別の誰かが迷惑を被ることにならないだろうか。

あなたの行為は、絶対的な正義なのだろうか。

 

座席を譲る前に、ぜひ考えていただきたい。

 

 

 

以上、普段の筆者の行為を正当化させるための主張であった。

 

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