筆者の妻は、身なりに厳しい。
結婚前、一人暮らしを10年以上していた筆者は、家の中なら一日中スウェットでも気にならない。
だが妻は許さない。
昼になってもそんな格好していたら、たちまち怒られる。
寝癖を直さなかったり、ヒゲを剃らなくても怒られる。
さっぱり清潔感が漂ってないとダメなのである。
キッチンは、水滴がなくなるようきちんと拭く。
食事の後、すぐ歯磨きする。
彼女独自のルールは沢山あり、そのルールは筆者にも適用される。
独身時代、マイペースで怠惰な生活を送っていた筆者にとっては、これまでとは真逆の生活なわけである。
適応するのにとても苦労している。
そんな妻が特に口を酸っぱくして言うことがある。
「明るい表情をしてほしい。」
妻曰く、ぼんやりと気を抜いているときの筆者は、とても表情が暗いらしい。
一匹狼的なところがある筆者は、元々笑顔が多いわけではない。
それに、人前で笑顔を見せようという心配りも特にしてこなかった。
無表情。
それが筆者のスタンダートなのである。
そのスタンダードが暗いというのだ。
言われてみれば、気の抜いた時、たまたまガラスに映った自分の顔を見て、ハッとしたこともある。
どんよりとしていて、確かに暗い。
鏡を見るときは気づかない。
素の表情ではないからだ。
鏡を見よう、と気合を入れていて、表情を作っている。
結婚するまで、自分の顔を見て他人がどう思うかなんて考えてこともなかった。
表情は他人の気持ちを大きく左右させるもの。
そう妻に教えられた(ひどく怒られながら)。
年齢を重ねると顔の肉が落ちてきたり、肌がくすんでくるせいか、最近は余計に暗く見えるらしい。
寝不足、ストレスも原因であろう。
思い返してみれば、年配の方で難しい顔をしながら歩いている人を見たときは、あまりいい気分にはならない。
への字に曲がった口に険しい目。
自分では怒っているつもりはなくても、つまり無表情のつもりでも、とても近寄りがたい雰囲気を出してしまっているかもしれないのだ。
若ければそれだけで魅力的である。
肌も透き通っていてたるみもなく、無表情でも若々しさに溢れている。
しかし、年齢を重ねるとそうはいかない。
人は年を取ればとるほど、見た目に気を遣わなければならないということなのだろう。