速読と遅読の使い分け

学生時代は本を貪るようにして読んでいた。

しかし、社会人になり結婚し、仕事や家庭に追われるようになってから、

読書の機会はぐっと減った。

作家志望が聞いてあきれる。

 

だが最近、仕事が少し落ち着いてきたのもあって、また、

日々の生活でまだまだ自分に足りない部分が多いなと感じていたこともあって、

ここ数ヶ月は、そんな足りない部分を埋めてくれるものを本に求めるようになった。

読んでいるのは、ビジネス本や自己啓発本、特定のテーマを扱った新書が多い。

 

しかし読むうちにもどかしさを覚える。

なかなかページが進まないのだ。

 

昔からの悩みなのであるが、筆者は本を読むのが遅い。

本というか、文章を読むのが遅いのである。

仕事でも、資料を読むのが人よりも遅く、そのため、

会議でも話題についていくのがやっということが何度もある。

 

そういった経験も踏まえ、まずは速読の本を読むことにした。

速読ができるようになれば、短時間で何冊も本が読めるようになり、

知識量が増えて仕事も楽になる。

 

こんなことに今頃気づくなんて。

もっと早くに取り組むべきだった。

そんなことを考えながら、速読の本を何冊も読んだ。

 

本がいうには、速読をマスターすると、ページをさっと見ただけで、

そこに書かれた内容をイメージ化することができ、理解できるという。

あるいは、文章中の重要単語が浮かび上がり、

それを追うだけで本の言いたいことを理解できるらしい。

 

何冊か速読に関する本を読み、実践を重ねた結果、

速読をマスターしたとは到底いえないまでも、一行をなるべく早く読み、

読み直さず読み進めるということを徹底していくと、少しずつその早さに慣れ、

理解力も上がっている感覚はある。

 

イメージ化や単語が浮かび上がる云々は定かではないが、

速読には一定の効果はあるのではないかと思う。

 

しかし一方で、読書が物足りないと感じる。

これはまだ筆者の速読力が未熟なせいなのかもしれない。

だが、今までの読み方と比べて、明らかに読後の感動や満足感が少ない。

 

筆者は速読時、内容を忘れないようにメモを取っている。

そして、あとでその本を要約してノートに記し、

その本が伝えたかったことを蓄積している。

こうすることで本の内容が記憶に定着するだろうし、

人にもどんな本だったか伝えられる。

 

上記のように本を理解しようという努力をしているのに、読後感が希薄なのである。

そんなことを思っていた折、とある本と出会った。

 

平野啓一郎
「本の読み方 スローリーディングの実践」

 

である。

 

この本の中で、著書であるの平野氏は、速読をひたすらこき下ろし、

逆にゆっくりと読むこと=スローリーディングを勧めている。

 

平野氏曰く、速読では、全ての文字をちゃんと読むことがでいないので、

作者の意図を正確に理解できるとは限らず、

また行間を読むことが困難なので奥深い理解ができない、らしい。

 

ここに筆者が感じていた物足りなさの答えがあった。

速読による読後感が薄いのは、単に書かれた情報を頭にインプットするだけ

になっていて、その内容から自分が何を思うのかを

ほとんど考えてなかったのである。

 

だから感動もないし、その本が自分の血肉になったという感覚もない。

平野氏のいうスローリーディングとは、単にゆっくり読むことではない。

なぜ作者はここでこんなことを言っているのか、作者の意図は何か、

自分なら主人公と同じ境遇でどういう行動をとるか、

という具合にいちいち考えながら読むことを指している。

 

これにより、その本を深く理解できるだろうし、

そこで考えたことが自分の身になるのだ。

 

平野氏が同作中でも触れているが、まだ活版技術がない頃、

昔の人は今よりもずっと読める本が少なかったはずである。

それなのに、多くの本を読んでいるはずの私たちよりも機知に富んだ知識階級が

存在したのは、一つの本をゆっくり時間をかけて読んでいったからに他ならない。

 

速読をやめて遅読をしよう、というのが、平野氏の主張である。

 

筆者は、平野氏のように速読を反対するわけではない。
速読、遅読共に特徴があり、その人が求めるものに応じて

使い分ければ良いと思っている。

 

各々の特徴と、活用場面は以下の通りと考える。

 

・速読

特徴:文章を早く理解するのに適している一方、深く理解するのには適さない

活用場面:仕事や情報収集など、スピードが求められる場面

 

・遅読

特徴:内容を深く理解するのに適している一方、理解までに時間がかかる

活用場面:これはと思った本や名作を読むとき、

あるいは思考能力を伸ばすことを目的に読書するとき

 

さて、速読に関する本を読んだあと、筆者は今年の目標に、

本を100冊読むと決めてしまった。

 

上述のとおり、速読には知識量を早く増せるメリットがあるので、

これはこれで続けていこうと思う。

 

一方、遅読のための本も用意している。

いわゆる名作と言われるものである。

この感想は機会があれば述べていこうと思う。

 

速読で知識を収集し、遅読でそれらを活用する力をつける。

 

このやり方が正しいかわからないが、今年いっぱい続けてみようと思う。

 

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