翌朝早く、筆者とN君はホテル近くの店でお粥を食べて腹を満たし、病院に向かった。
保険のおばさんがメールでS君の病室番号を教えてくれていたので、受付を経ずにそのまま病室に向かった。
病室は六人部屋だった。
小さな部屋に所狭しとベッドが設置され、全て使用中であった。
ベッドの他にはテレビが一台、入り口近くにあるだけの簡素な病室だった。
S君は一番奥のベッドにいた。
カーテンの外から声をかけると、S君の力のない声が返ってきた。
カーテンを捲ると、点滴をつけたS君が横たわっていた。
力なく笑いながらこちらを見ている。
とりあえず、生きていてよかった。
話を聞くと、穴に落ちて腰を打った際、腎臓を痛めたらしい。
血尿が出たのは、腎臓が傷ついたことが原因だったそうだ。
食べ物を消化する際、腎臓に負担がかかるということで、点滴で栄養を採っているのだ。
大事には至らなさそうでほっとしたのもつかの間、S君から衝撃的な一言が出てきた。
「俺手術するかもしれない」
言葉を失った。
え、そんなに深刻なの?
思わずN君に目をやると、彼も若干引きつった表情をしていた。
どうやら、腎臓の損傷が激しいらしく、今後の検査結果次第で手術に踏み切る可能性もあるらしい。
「昨日晩御飯食べたのもよくなかったんだって。消化が腎臓の損傷を広げるからって。ほら、血尿出たのもご飯食べてからだっただろ」
S君の目は潤んでいた。
かける言葉が見つからなかった。
すぐに保険のおばさんが来たので話を聞いたが、S君が言ったことを裏付けただけだった。
当初の予定では、香港滞在は四日間だったが、S君の退院までには二週間以上掛かりそうとのことだった。
まじかよ。
「ごめんな、こんなことになって」
S君が口を歪めながら言った。
大丈夫だよ。
そう言うしかなかった。
「俺のことは気にせず、観光してくれ」
ああ、うん。ありがとう。
S君の言葉が胸に刺さった。
言われなくてもそのつもりだったなんて、言えるわけがない。
とりあえず、長期の入院になりそうだったので、S君のために必要なものを買いに行くことにした。
漫画や小説があるとありがたいと言っていたので、香港で取り扱っている店を探しまくった。
探している最中、さすがに、筆者もN君もどこに観光しようかなどとは口にしなかった。
(続く)