S君は英語が苦手だった。
一人で大丈夫だろうか。
S君が運び込まれた診察室を見ながら、ぼんやりと考えた。
夜中にも関わらず、病院内にはたくさんの患者が待合室にいる。
皆一様に元気がないので、雰囲気は悪かった。
さすがにこの状況でガイドブックを見ようとは思えなかった。
どれくらい待っただろうか。
正確な時間は覚えていない。
体感時間にして一時間くらいだった。
ようやく、診察室の扉が開いて、台車に乗ったS君が出てきた。
しかし、台車は筆者の前を素通りして進んで行く。
看護師からも特に説明はない。
インフォームドコンセントがなってない!
病院の態度にイラッとしたが、そんなこと言えるわけがない。
というか、そんな英語話せない。
仕方なく、なにも分からないまま後に続いた。
S君はまた別の部屋に運び込まれた。
部屋のや名前が中国語で書かれていたので、何をするところなのか全く分からない。
再び待つように言われたので待った。
そこは周りに人がおらず、少し落ち着くことができた。
筆者の携帯に着信があった。
出てみると片言の日本語を話す女性だった。
保険会社の現地スタッフだ。
ようやく病院についたのだ。
場所を伝えてしばらくすると、四十代前半くらいの女性がやってきた。
優しそうな人で、それだけで筆者の気持ちは楽になった。
彼女は、大変でしたね、とこちらへの気を遣いを示し、二人の話を一通り聞いた後、あとは自分に任せて大丈夫、と言ってくれた。
S君を待つべきか悩んだが、いつ出てくるのか分からないし、夜中の2時を回っていたし、身体もクタクタだったのし、ということで、S君を置いて帰ることにした。
こういう時、できた人間なら、友人が出てくるのを待ちます!とでも言うのだろうが、残念ながら筆者ら二人の人間性は並以下である。
翌日また来ることを約束して、病院を後にした。
帰り道、翌日どこに観光しようかと二人で相談したり、穴に気づけなかったのか、とS君批判をしたのは言うまでもない。
若かったのだ。
人間がまだできていなかったのだ。
大目に見て欲しい。
兎にも角にも、長い長い一日がようやく終わった。
翌朝病院に早く来るように言われたのを不満に思いつつ、二人は深い眠りについた。
(続く)