香港旅行の思い出 その8

翌朝早く、筆者とN君はホテル近くの店でお粥を食べて腹を満たし、病院に向かった。

保険のおばさんがメールでS君の病室番号を教えてくれていたので、受付を経ずにそのまま病室に向かった。

病室は六人部屋だった。
小さな部屋に所狭しとベッドが設置され、全て使用中であった。
ベッドの他にはテレビが一台、入り口近くにあるだけの簡素な病室だった。

S君は一番奥のベッドにいた。
カーテンの外から声をかけると、S君の力のない声が返ってきた。

カーテンを捲ると、点滴をつけたS君が横たわっていた。
力なく笑いながらこちらを見ている。

とりあえず、生きていてよかった。

話を聞くと、穴に落ちて腰を打った際、腎臓を痛めたらしい。
血尿が出たのは、腎臓が傷ついたことが原因だったそうだ。

食べ物を消化する際、腎臓に負担がかかるということで、点滴で栄養を採っているのだ。

大事には至らなさそうでほっとしたのもつかの間、S君から衝撃的な一言が出てきた。

「俺手術するかもしれない」

言葉を失った。
え、そんなに深刻なの?

思わずN君に目をやると、彼も若干引きつった表情をしていた。

どうやら、腎臓の損傷が激しいらしく、今後の検査結果次第で手術に踏み切る可能性もあるらしい。

「昨日晩御飯食べたのもよくなかったんだって。消化が腎臓の損傷を広げるからって。ほら、血尿出たのもご飯食べてからだっただろ」

S君の目は潤んでいた。
かける言葉が見つからなかった。

すぐに保険のおばさんが来たので話を聞いたが、S君が言ったことを裏付けただけだった。

当初の予定では、香港滞在は四日間だったが、S君の退院までには二週間以上掛かりそうとのことだった。

まじかよ。

「ごめんな、こんなことになって」
S君が口を歪めながら言った。

大丈夫だよ。
そう言うしかなかった。

「俺のことは気にせず、観光してくれ」

ああ、うん。ありがとう。
S君の言葉が胸に刺さった。

言われなくてもそのつもりだったなんて、言えるわけがない。

とりあえず、長期の入院になりそうだったので、S君のために必要なものを買いに行くことにした。

漫画や小説があるとありがたいと言っていたので、香港で取り扱っている店を探しまくった。

探している最中、さすがに、筆者もN君もどこに観光しようかなどとは口にしなかった。

(続く)

 

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