思い返してみると、バレンタインデーには全くいい思い出がない。
学生時代から全くモテなかった筆者。
バレンタインデーも、母親からお情けのチョコレートをもらうくらいで、誰かから本命チョコをもらった記憶はない。
(余談ではあるが、母親からもらうお情けチョコレートは、本当に情けなくなる。ありがたいのだが。)
そんな、どちらかというとバレンタインデーが嫌いな筆者だったが、数年前の結婚を機にバレンタインデーが特別な日になった。
理由はバレンタインデーに入籍したためである。
つまり、結婚記念日になったのだ。
当時、年明けどこかでの入籍日を調整していた二人。
日取りもよさそうだし、覚えやすいしという理由で、2月14日を選んだ。
バレンタインデーに特別な思い入れがあったわけではない。
以来、2月14日には結婚記念日をお祝いすることにしていた。
といっても、どこかレストランに行ったり、花を贈ったりする程度で、大げさなことはしない。
ただ妻が花好きなので、花は必須のアイテムだった。
それくらいである。
さて、今年の結婚記念日である。
今年は、記念日の数日前から不穏な空気が漂っていた。
というのも、またくだらないことで喧嘩をしていたからである。
原因は朝筆者が緑茶を淹れなかったこと。
「は?」という読者もおられよう。
だた、夫婦喧嘩というのは得てしてそういうくだらないことが原因になるのである。
妻は緑茶好きで、毎朝淹れてくれたら嬉しいと言っていた。
にもかかわらず、朝がめっぽう弱い筆者は、頭がぼんやりしていて淹れるのを忘れたのである。
妻の主張はいつものとおり、「優しくない」「気が利かない」「つまらない」の三点セット。
もう謝るしかない。
その時のイライラがなかなか治らず、日をまたいでずっと機嫌が悪かったのである。
残念ながら今年の結婚記念日は平日。
しかも仕事の忙しさ最高潮のときだったので、二人で食事はできない。
妻の機嫌を直すきっかけを作ることもできなかった。
仕方なく、記念日前夜に花とケーキを買って(妻が寝静まった頃に)帰り、翌朝に渡す作戦を採用。
そんな中、迎えた結婚記念日。
朝、いつもより早く起き、いそいそと着替える筆者。
(妻はいつものごとく、筆者よりだいぶ早く起きている)
いつもなら寝巻き姿で朝食をとるのだが、今日はきちんとカッターシャツとネクタイ姿で。
着替えてリビングに行くと、妻も既に着替えを済ませていた。
(お、妻も正装か)
心躍る筆者。
待たせてはならないと、洗面所でいつもより髭を入念に剃り、顔を洗う。
化粧水もいつもりよ多めに。
鏡を見て笑顔を作り、リビングへ。
すると妻は上着を着ているではないか。
「あれどうしたの」
驚いて問うと、
「今日はいつもより早く行かないといけないの」
との返答。
内心、
(まじかよ)
である。
しかし、そこはぐっとこらえなければならない。現実を受け入れなければならない。
男たる者、そうでなければならないのである。
よく見ると、妻の手には、数日前に買ったチョコレートが入った紙袋が。
そうか。
それを筆者にくれるのか。
だって今日はバレンタインだしな。
再び心躍る筆者。
しかし、妻はそれを持ったまま
「行ってきます」
と言って、いそいそと出かけていった。
おそらく、職場で配るものだったのだろう。
筆者は妻の後ろ姿を見送るしかなかった。
男たる者、そうでなければならないのである。
こうして、筆者の結婚記念日大作戦はあえなく失敗に終わった。
ちなみに、結局妻からはチョコレートをもらっていない。
やれやれ。
まったく、バレンタインデーにはいい思い出がない。